小さな鍋

土曜は仕事で前橋にいた。忙しくあっという間に一日が過ぎた。
日曜日は寝坊していた。疲れてなかなか起きられなかった。
午後から走った。
寒くてやる気が起きずに、なかなか前向きになれなかった。
それでも、今日を逃すとなかなか時間がとれない。
結局走った。
そのあと車の修理が上がったというので、取りにいった。
バンパーに入った擦り傷を直した。

実家に行った。

仕事が辛いと言っている。
母も、痛む腰をこめつきバッタのように屈めながら、老体に鞭を打っている。

父は鍋を作っていた。夕飯だ。

寒いときは鍋に限るな。
思い付きで魚を買ったんだと、鱈や鮭やホタテ、牡蠣など、魚介を少量ずつ揃えていた。
質素だがささやかな楽しみ。
この年になると楽しみは食うことくらい。

もう煮えていて、食べていけと言う。
僕は、家で食べることにしてるから要らないよと断ったが、少しだけでも食べろと言う。
年寄り二人だから一人用かと思うような小さい鍋。
小さい鍋はより侘しく見える。

鍋をよくみると汁が透明で味が薄い。
聞いたら出汁をとってなかった。
せめて昆布くらい敷いて欲しかった。
魚を料理することを生業にしている人なのにな。
訳を聞いたら、「知らなかった」という。

おかしいなぁ。と思ったが、あまり口出ししても悪いと思い、時間もないので帰ろうとした。

でも寂しそうに二人で黙っているから、鍋を再び火にかけ、魚介を足して昆布だしとしょうゆで薄めに調味して少し煮た。

一煮立ちさせて鍋をテーブルに置いて、ふたを開けるとグツグツ煮えていて美味しそうになった。

二人は旨い、と言って食べた。
それを見ていたらなんだか二人が急に年老いてみえた。
もともと年老いているのだが。

僕が何を言いたいか。彼はわかるだろうか。